「耳が痛い。」「音が痛い。」「片方だけもわーってなって聞こえない。」
はるがそう言った日、私は、あんなに大変なことになってしまうなんて思いもしませんでした。
聞こえないというので、耳の中を見てあげました。
中耳炎だろうかとも思いましたが、熱があるわけでもなく。
そんなに緊急を要する感じも受けなかったので一晩様子を見てみれば、治るだろう。
そのくらいに考えていました。
ただ、音で痛いなんて、そんなことがあるのだろうか。そこだけは、何か引っ掛かっていました。
翌日、辛そうな様子も見せなかったので登校させました。
しかし、それらの症状は、学校へ行ってみると一気に強くなりました。
けれど今ならわかります。
あの子にとって教室は、私たち大人が思うより、ずっと激しい場所だったのだと。
この記事でわかること
- 子どもが耳が痛いと言う理由
- 学校や生活音は何dBくらいなのか
- 聴覚過敏の子どもに起こること
- 親と学校ができる支援
教室の音は、実はかなり大きい
私たちは毎日聞いているので慣れていますが、学校にはたくさんの音があります。
教室のざわざわ、給食の食器音、椅子を引く音、体育館の反響音。
大人には「少しうるさい」で済む音でも、敏感な子には強い刺激になることがあります。
| 音の種類 | dB | 大人には | はるには |
|---|---|---|---|
| 図書館 | 40 | 静か | 落ち着く |
| 普通の会話 | 60 | 日常の音 | 疲れる日もある |
| 教室のざわざわ | 70〜80 | 少しうるさい | 緊張する |
| 給食の食器音 | 80前後 | にぎやか | 耳をふさぎたい |
| 雨音 | 50〜70 | 雨の音 | 頭に響く |
| 体育館の反響音 | 85〜90 | かなり大きい | 強いストレス |
| 椅子を引く音 | 瞬間音 | 嫌な音 | 刺さるように痛い |
| サイレン | 90〜120 | 大きい音 | 強い痛み・恐怖 |
※感じ方には個人差があります。
はるが苦手だった音
- 雨が地面や傘を打つ音
- 自転車で走った時の風切り音
- 救急車、消防車、パトカーのサイレン
- ラジオのザーッというノイズ音
- 教室で机や荷物を引きずる音
- 椅子を引く高い金属
- バイクやトラックが通り過ぎる音
- キッチンで料理をする音
- 拍手
- 電車や駅の音
ここには書ききれないほど、普段の生活の音のほとんどが痛みに変わりました。 大人にはただの生活音でも、はるには体がこわばるほどの刺激だったのだと思います。
はるにとっては“痛み”でした
- 朝のチャイムで肩が跳ねる
- 拍手の音で頭が割れそうに痛いと泣いたことがある
- 教室の物音で顔がこわばる
- 金管部の音で倒れそうになり、実際に学校で倒れたこともありました
その夜、体調を大きく崩し、夜間救急を受診したこともあります。
音のつらさは、気分の問題ではなく、体にも現れることがあるのだと知りました。
あの日から、景色が変わりました
はるが「耳が痛い」と言った夜。
私は、その言葉の重さをまだ理解していませんでした。
翌日も様子を見てしまいました。
けれど、症状はおさまらず、耳鼻科を受診することになりました。
いつも通っている病院は休診で、昔からある地域の病院へ向かいました。
診察室で先生は、こう言いました。
「お母さん。この子の右耳は、全く聴力がないよ。これを治すのは時間もかかるし、元に戻すのは難しいかもしれない」
その言葉は、今も忘れられません。
頭が真っ白になりました。
さらに、治療は早い方がよく、遅れるほど回復も難しくなることがあると説明されました。
私は、前日に耳が痛いと言った時点で、すぐに病院へ連れて行くべきだったのではないかと、自分を責めました。
待合室では、はると何か話していたはずなのに、何を話したのか思い出せません。
それほど動揺していたのだと思います。
ただ、帰宅してもどこか違和感が残りました。
このままではいけない。
そう思い、すぐに大きな病院へ電話をかけました。
それまでに起こったこと。
小学校2年生の時の出来事や心因性視覚障害と診断されたこと。
最近の様子。
学校での出来事。
気になっていたことを、私はすべて紙に書き出して持って行きました。
大きな病院で、私のメモを見た医師は、通常の検査に加えて内耳や外耳の検査まで丁寧にしてくださいました。
その検査で、突発性難聴ではないことがわかりました。
ただ、数年経過してはいるものの心因性が続いていることなど私は焦りから、別の専門機関にもすぐ相談すべきか尋ねました。
すると先生は、今は、リラックスと安心が重要で、あれもこれもと検査を重ねることは、かえって本人の負担になることもあると話してくださいました。
そして、子どもは強いストレスや人間関係の変化をきっかけに、突然こうした症状が出ることもあること。
特に思春期の女児などお友達との関係の悩みから聴力がなくなり、クラス替えなど環境が変わることで回復していく子もいることを教えてくれました。
当時は苦しむ子供を前に焦りが前に出てしまって、先生の「リラックス」という言葉も半信半疑でした。
けれど今なら、その言葉の意味がわかります。
子どもの体は、ときに心の悲鳴を代わりに引き受けるのだと思います。
なぜ音で痛くなるのか
聴覚過敏のある子どもは、脳の音のフィルター機能がうまく働かず、必要な音も不要な音も一気に入ってきやすいと言われます。
- 急な音に強く驚く
- 雑音で疲れ切る
- 集中できない
- 痛みに近い感覚になる
わがままでも、気のせいでもありません。
体からのSOSです。
学校がしてくれた支援
私は合理的配慮の線引きがどこにあるのか、正直よくわかっていませんでした。
ただ、状況をきちんとお話しし、症状やヘッドホン等の使用など「先生方で情報共有してくださるとありがたいです」というお話は先にしました。
けれど学校は、制度の言葉より先に、はるの「安心」を中心に動いてくださいました。
- 先生方全体への情報共有
- クラスで苦手な音を共有
- 椅子や机にテニスボールをつける工夫
- 校内に音から逃げられる避難場所を用意
- 本人と一緒に安心できる場所を確認
「つらくなったら逃げていい場所がある」
それだけで、子どもの心はずいぶん違うのだと思います。
けれど現実には、学校で配慮していただくだけで終わりではありませんでした。
痛みや不調を抱える子どもに、家でどう対応するのか。
登下校はどうするのか。
学校には何をどこまで伝えるのか。
どんな音ならつらく、何なら少し楽なのか。
私たち家族も、はる本人も、毎日手探りでした。
ヘッドホン、耳栓、休む場所、声のかけ方。
その時々でできることを探し、試してはまた変えていく日々でした。
けれど当時、同じような悩みを持つ親が参考にできる情報は、なかなか見つかりませんでした。
時間ばかりが過ぎ、これで合っているのかわからないまま過ごした日もあります。
だからこそ、もし今、同じように困っている方がいるなら少しでも助けになればと思い、わが家が試した道具や工夫を別の記事にまとめました。
👉 子どもが耳が痛いと言った日──聴覚過敏の我が子を救ったヘッドホン選びの全記録
親として後悔したこと
本人が「部活にも行ってみる」と言ったため、その意思を尊重しました。
けれど今振り返ると、あの時必要だったのは頑張らせることではなく、休ませて守る判断だったのだと思います。
子どもの「耳が痛い」は見えないSOSかもしれません
見た目ではわかりにくい苦しさがあります。
- 甘えと決めつけない
- 大げさと思わない
- 子どもの言葉を信じる
- 安心できる環境を一緒につくる
そのことが何より大切だと、はるに教えてもらいました。
おわりに
子どもが「耳が痛い」と言ったとき、原因がすぐにわからず不安になる親御さんも多いと思います。
でも、それは怠けでもわがままでもなく、感覚の苦しさかもしれません。
子どもの感じている世界を一緒に理解しようとすること。
それが、何より大きな支えになるのだと思います。
※生活音の目安は、環境省資料などを参考にしています。
※本記事は、現在の医学的知見と専門家の説明、そして私がジェンダーを基盤に多領域を横断して学んできた理解にもとづいています。研究は日々更新されるため、新しい見解が示される可能性があります。